射出成形 > Design Tips > 試作・製造向け3Dプリンティング技術 ~より優れた製品を作るために3Dプリンティング(付加製造)をどのように活用するか~
※本記事は米プロトラブズにて編集・作成されたものです。文中の一部サービスには日本では未展開のものも含まれています。
建築家は設計の際に必ずモデリングを行います。「青写真」を作成し、レンダリングして3Dモデルを製作します。しかし、こうした設計ツールでは、実際の建物に似た形状を作り出すことはできますが、大きさや材料までも実物同様に反映することはできません。そのため、プレハブやモジュール建築を除き、完成品になるまで、実際の建築資材が設計どおりの構成で組み立てられることはありません。建築家が迅速な変化に対して慎重になりがちな理由の1つはここにあります。実際に実環境でテストせずに大きく変えることは危険が伴うのです。
多くの場合、建築家のバリュープロポジションは、イノベーション、つまり既存のものとは異なる価値を提供することです。そのためには、製品の開発や市場投入を迅速に行い、競合他社より先行する必要があります。試作を機敏に行えば、こうした目標の達成を後押しすることができます。重要なのは、開発の要所でそれぞれ適切な試作の工法を選択することです。
一方、製品開発はこれとは事情が異なります。今日の製品は、数千~数十万個単位で製造されることを前提として設計されており、パーツ単体とアセンブリー後の完成品のどちらも、開発プロセス全体を通じて製造およびテストされます。今日、製品イノベーションの速度が速いのは部分的にはこのためです。しかし、これによって試作プロセスに大きな圧力がかかることにもなります。新製品は、競争が激しい市場において、顧客の期待を超える必要があるからです。
通常3Dプリンティングでは、デジタルCADモデルを使用し多くの場合積層プロセスにより実物を製造するプロセスです。選択された造形技術が適切であるかどうかは、パーツの用途によって決まります。

3Dプリンティングでは、従来の工法では製造不可能な複雑な形状を持つパーツを製造できます。
たとえば、脳のコンセプトモデルは、外科手術の計画を行う医師にとって固有の医学的価値がありますが、樹脂のような材料でプリントしたものは1つや2つしか需要がないため、量産されることはないでしょう。一方で、エンジニアリンググレード金属を使用した、最終製品として機能する用途のパーツなどは、少量生産に3Dプリンティングが利用されることがあります。
しかし、最終的に射出成形などのプロセスが製造に必要な場合は、開発において3Dプリンティングを使用する機会は限られます。たとえば、鋳造部品や成形部品の開発の後期段階では、最終生産パーツと同じ(またはほぼ同じ)材質性のパーツで機能テストすることが重要です。これは、繰り返し可能な射出成形による樹脂や金属製の試作品にも当てはまります。このように、試作時の製造方法は、用途、材料の要件、製造性、その他の要因によって、開発プロセス中に変化する場合があります。
初期段階の試作品は、通常、非常にわずかしか製造されず、生産パーツの機能特性をすべて備えている必要はありません。パーツの材料選定と内部構造は、この段階ではそれほど重要ではないため、試作品は迅速かつ価格が手頃な、さまざまな3Dプリンティング技術を使用して製造できます。
3Dプリンティング工法で製造されるパーツの用途には、次のものがあります。
- 生産パーツ
- 機能モデル
- 視覚資料
- 嵌め合いと組み立てテスト
- 各種型の母型や型部品
- 治具固定具
- コンセプトモデル
- 精密鋳造用消失モデル

粉末焼結(SLS)パーツの造形が完了したら、生成されたパーツから余分な粉末を装置の造形エリア(パウダーベッド)から取り出します。

高速光造形(SLA)装置では、ABSライク、ポリカーボネート(PC)ライクや、ポリプロピレンライクの造形材料で、優れた表面仕上げを施したパーツを迅速に製造できます。
目的に合った適切なツール
各試作方法には、それぞれ適した用途があります。例として、可動部品を内側に備えた携帯機器を開発する設計者やエンジニアの場合、開発プロセスは、一連の3D CADモデルの設計から始まります。これにより、部品の設計後に、仮想組み立ても素早く行えます。最初の実物試作の準備ができたら、設計者はCADモデルから3Dプリンティングで、試作品を作成します。ハウジングのような外観部品には光造形(SLA)工法を選択して美しい表面仕上げを施し、強度の必要な内部部品には粉末焼結(SLS)工法などを選び、最適な材料特性を適用します。開発プロセスが進むにつれて、ハウジングと内部部品の設計が変更された場合は、これらの製法を使用して試作が繰り返されることも想定されます。
機能テストの段階に到達したら、負荷時の内部部品の性能とハウジングの落下時の耐久性を調べるため、設計者はまず3D CADモデルを送り、適切な材料を使用して各部品の試作品をいくつか機械加工します。これらの試作品は、生産パーツと同じ物性を持っています。また、特にハウジングについては、外観も生産パーツと同じものになります。大規模なテストを行う場合は、同じCADモデルを使用して短納期で試作・小ロット向け金型で射出成形パーツを作成し、物理的評価や市場評価を行えます。これらのテストによって製品を市場に投入できることが検証されたら、大量生産向けの量産金型の加工を開始するでしょう。ただ、量産金型の加工には時間がかかるので、その間に上記試作・小ロット向けの金型を使用して市場向けの先行量産パーツを製造し、製品をマーケットへより早く投入できます。

粉末焼結(SLS)法では、さまざまなグレードのナイロン熱可塑性樹脂を使用し、細かい粉末の層をレーザーで溶融してパーツを成形します。
規模の経済性
どの3Dプリンティング工法も、数千、数万個単位の大量生産には向きません。生産規模の拡大という、3Dプリンティングプロセスの新たなフロンティアは、近い将来、踏み込める領域なのでしょうか。独立コンサルティング企業Wohlers Associates, Inc.のTerry Wohlers氏によると、医療業界、航空宇宙業界や、歯科や宝飾品の分野で、3Dプリンティングによるパーツの生産が増加しつつあるといいます。しかし、劇的な変化が起きるには、それ以上のものが必要なようです。現在、3Dプリンティング用の樹脂材料は、Wohlers氏によれば、従来の製造材料よりも(50~100%ではなく)50~100倍高価であるといいます。そのため、現在のところは、主に試作から少量生産に適しています。設備の処理能力が向上し、設備と材料のコストが下がれば、大量生産の可能性は高まるでしょう。それまでは、射出成形のような工法が、試作の次に進む段階として理にかなっています。射出成形では金型への初期投資が必要ですが、生産量が増えればパーツ単価は低下します。
製造不可能なものを製造可能に
薄い層を何千も積み重ねてパーツを作成する造形法なら、3Dプリンティング用の設計CADモデルで、多くの場合成形が不可能な、非常に複雑な形状(エンドミルでは届かない内側の溝や穴の加工や、組み立て部品全体を単一部品として3Dプリントするなど)でも作成できます。しかし、3Dプリンティングによる試作から射出成形に移行する段階になったときに、どうなるのでしょうか。たとえば、DMLS(Direct Metal Laser Sintering、ダイレクトメタルレーザー焼結法)で製造したステンレス鋼製の試作から少量のMIM(Metal Injection Molding、メタルインジェクション成形)への移行がその好例です。抜き勾配、角R、均一な肉厚など、成形固有の設計上の考慮事項は、3Dプリンティングではほとんど考慮する必要はありませんが、MIMに移行するためには、これらの要素はずっと重要になります。プロトラブズでは、インタラクティブな見積もりシステムで、射出成形の製造性を自動的に特定し、解決策を提案します。これにより、設計を少し見直す必要が出てくる場合もありますが、3Dプリンティングで作成した試作品を生産可能なパーツへと素早く仕上げることができます。

DMLS3D プリンティングでは、アトマイズにより生成された金属粉末素材を、レーザーで溶融して固体のパーツを成形します。
工法の選択
希望を満たすレベルの試作品が作成できる3Dプリンティング工法が必ずしも存在するとは限りません。問題は、自社のプロジェクトとプロジェクトの各段階に合った、最適な試作方法を見つけることです。試作方法の要素には、速度、コスト、外観、使用できる材料、さまざまな物理的特性などがあります。場合によっては、形を見るだけでよい場合もあります。他の部品との嵌め合いを調べる必要がある場合もあるでしょう。

ほとんどの工業用3Dプリンティング技術では、サポート材や余分な材料を取り除くためにある程度の二次加工が必要です。
BJET | バインダージェッティング |
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バインダージェッティングは、もっとも単純で基本的な3Dプリンティング工法の1つです。インクジェットプリントヘッドがパウダーベッド上を左右に移動しながら、液体バインダー剤を選択的に塗布させます。この工程を繰り返し行い、完成部品を成形します。部品が完成したら、完成部品を残して結合されていない粉末を除去します。 メリット
デメリット
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FDM | 熱溶解積層法 |
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FDM(Fused deposition modeling、熱溶解積層法)では、熱可塑性樹脂(ABS、PC、またはABS/PCアロイ)を溶解し、層状に再固化させ、試作品を成形します。実際の熱可塑性樹脂を使用するので、バインダージェッティングよりも強度は高いものの、機能テストにはあまり適していない場合もあります。 メリット
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SLA | 光造形 |
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SLA(Stereolithography、光造形)では、コンピューター制御のレーザーを使用し、UV硬化樹脂のプールに照射してパーツを造形します。レーザーで1層ずつ描画して、1層が固まれば、1段造形ステージが下がることで次の層の硬化が始まります。完成部品の品質は、使用する装置と造形手法(パラメータ)に大きく左右されます。 メリット
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SLS | 粉末焼結積層造形 |
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SLS(Selective Laser Sintering、粉末焼結積層造形)では、コンピューター制御のCO2レーザーを使用して、ナイロンなどの粉末材料の層を重ねながら下から上へと積層溶融していきます。強度は光造形よりも優れていますが、射出成形やCNC切削加工などのサブトラクティブ工法で得られる強度には劣ります。一部のパーツの量産工法としては有用です。 メリット
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PJET | POLYJET(ポリジェット) |
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PolyJet(PJET)では、プリントヘッドで液体フォトポリマー樹脂の層を吹き付け、液体の層をUV(紫外線)ライトで1層づつ硬化させて積層造形します。層は非常に薄く、高い解像度に対応しています。サポート材としてゲル状のサポートマトリックス材料を使用します。これはパーツが完成した後に除去します。PolyJetではエラストマーパーツの製作が可能です。 メリット
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DLP | デジタルライトプロセッシング |
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DLP(Digital light processing、デジタルライトプロセッシング)ベースの3Dプリンティング工法では、デジタル処理で固体を層にスライスし、その層をTexas Instruments社のDLPチップを使用して液体フォトポリマーの槽の表面に投影します。投影された光により、可動ビルドプレートの上にある液体ポリマーの層が硬化します。ビルドプレートが少しずつ下降すると、新しいイメージが液体の上に投影され、後続の層が1つひとつ固められていくことにより、完成品が生み出されます。残りの液体ポリマーを樹脂槽から流し出すと、固体のモデルが残ります。この工法は、小型で非常に精細なパーツを少量生産する際には役立ちますが、大型のパーツ、特に滑らかな表面仕上げが必要なパーツにはあまり適していません。 メリット
デメリット
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DMLS | ダイレクトメタルレーザー焼結 |
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DMLS(Direct Metal Laser Sintering、直接金属レーザー焼結)は、金属の試作品製作において、主な3Dプリンティング工法です。プラスチック樹脂を使用する粉末焼結法SLSと原理は似ていますが、アルミニウム、ステンレス鋼、チタニウム、コバルトクロム、インコネルなどの金属パーツが造形できます。優れた精度、細密さ、機械特性が得られます。DMLSは非常に小型のパーツやフィーチャに使用できます。積層造形工法であるため、密閉空間など、機械加工では製造不可能な形状を造形できます。層は20ミクロンまで薄くすることが可能で、小さなフィーチャの公差は±0.05ミリまで小さくすることができます。DMLSで製作したパーツの二次加工には、工作機械による穴あけ、立て削り、フライス加工、リーマー加工や、アルマイト処理、電解研磨、手研磨、粉末コーティング、塗装などの仕上げ工程があります。 メリット
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試作の外注
上記で説明したいくつかのプロセスは社内でも実施できますが、この種の試作の大半は外注されています。外注することで、開発者は特定のニーズに合った最適な3Dプリンティング工法を選択できます。また外注により、1つのプロジェクト中に複数の試作方法を利用することなどが可能になります。業者を選定する際は、以下のようなチェック項目を念頭に、プロジェクトのニーズと目標を考慮するとよいでしょう。
- 製造業者は自社の固有のニーズに合った適切な試作方法を提供できるか?
- 開発プロセスの各段階で最適な方法を選択できるよう支援してくれるか?
- 何らかの設計支援を提供しているか?
- 一連の試作が必要な場合、一貫性のあるサービスが利用できるか?
- 製造業者は利用予定の工法の経験をどれだけ持っているか?
- 各試作方法で、最高の品質の試作品を製造できるか?
- 必要な場合に、試作品の二次加工を利用できるか?
- 材料が重要な場合、選択した方法ではどの材料が利用できるか?特定の方法で希望する材料が使用できない場合、それ以外の方法を利用できるか?
- 試作の所要時間はどれくらいか?
- 製造業者の納期遵守に関する評判はどうか?